コンコン。

「はーい」

 扉をノックすると、間延びした声が返ってきた。

「あれ、カノンちゃん。と、デュックス殿下。どうしました?」

 扉を開け出てきたアルさんは王子の姿を見るなり真剣な顔つきで尋ねた。
 私と同じように、王様に何かあったのかと考えたのだろう。

「父さまはあのままぐっすり眠っている。デイヴィスのお蔭だ。本当にありがとう」

 王子が言うとアルさんも明らかにほっとした様子でいつもの笑顔を見せた。

「いえ、お役に立ててこちらも嬉しいです。また後ほど伺おうと……ってそれは?」

 アルさんの視線がワゴンに乗った料理に留まった。

「あのこれ……ラグの分なんです」

 部屋の奥にこちらを見つめるツェリウス王子の姿を見つけ、慌てて名前の部分を抑えて言う。そういえば偽名を考えておけと言われていたのだった。

「あいつの?」
「はい。まだ戻ってなくて……。あ、私これからデュックス殿下と庭園に行くのでデイヴィス先生に持って行ってもらえたらと思って」

 笑顔が引きつるのを自覚しながらお願いすると、アルさんは小さくため息を吐いた。