思い違いではなく、彼も私と同じ気持ちを抱き、それと同時に、これは報われない恋なのだとも気づいているはず……。

 きっと出張から戻ってすぐに、早乙女さんとの婚約話を聞いたのだろう。そして、彼はそれを受け入れたんだよね?

 当然だと思う。少しは私に好意を持ってくれていたのかもしれない。だけど、どう考えても彼に見合う女性は私ではない、早乙女さんだもの。

 私とデートがしたいと言ってくれたのも、以前交わした約束を守るため。もしくは、最後の思い出作りかもしれない。

 でもそれは、私にとっても同じ。……最後にもう一度彼に会いたかった。大好きな、あの優しい顔で『さくらちゃん』って呼んでほしかったから。

 なにより私も、これが叶わぬ恋とわかっているからこそ一度だけでもいいから、村瀬さんと恋人がするようなデートをしたいと思ったの。

 デートの日取りを決めた次の日には、仕事終わりに百貨店に駆け込んだ。新しい服を数着買って、アクセサリーやバッグも新調した。まるで学生時代、初めて男の子と出かけた時のように浮かれて、そして胸が苦しいほどドキドキしている。