ありふれた日常の中で出会ったさくらちゃんとは、自然と仲良くなっていった。僅かな時間の中で些細なことしか話していないのに楽しくて、少しでも会えると嬉しくて……。

 初めて抱く感情を大切にしたかった。彼女の前ではムラセの次期後継者の自分ではなく、ただの村瀬誠司でいたかったんだ。

「店のことは、商店街の人から聞いたよ。……おじいさんやご両親は大丈夫?」

「あ、はい。……おじいちゃんの手術も無事に終わりました。お父さんとお母さんも、おじいちゃんの食堂をよりいっそう大きくすると意気込んでいます」

「……そっか」

 買いに行くたびに、気さくに声をかけてくれた。いつも閉店ギリギリに行っていたから、よくおまけをしてくれていたよな。変わらぬ笑顔で迎えてくれて、それがどれほど嬉しかったか。

 あの店がなくなってしまったのは悲しいが、ふたりがやる店ならきっと新たな場所でも、多くの常連がつくことだろう。彼らの人柄と、料理の味に惚れこむ者は多くいるはず。

「お父さんとお母さんも、最後までずっと気にしていました。村瀬さんにちゃんと挨拶できなかったことに。……それは、私も」

「さくらちゃん……」