店を畳むんだもの、これを機に村瀬さんのことは諦めるべきじゃないかな。

 弁当屋がなければ、彼との接点はなくなる。幸い村瀬さんには、私が彼の会社の社員だと知られていないし。

 最初から叶うはずのなかった恋で、密かに想いを寄せているだけで十分だったんだもの。大丈夫、時間が経てば忘れることができるはず。

「……くら。……おい、さくら!」

 大きな声で名前を呼ばれ、ハッとし足を止めると、怪訝そうに私を見る大と目が合う。

「ごめん、なに?」

 どんな話をしていたのかわからなくて素直に謝ると、大は眉をひそめた。

「お前、大丈夫か? ……店を畳むことに納得しているって言っていたけど、本当は無理しているんじゃないか?」

「そんなことは……」

「俺にくらい弱音を吐けよ。……時田ほど力にはなれないかもしれないけど、話ならいくらでも聞くから」

 私の声を遮り言われた言葉に、胸が熱くなる。

 大好きなお店がなくなるのは寂しい。でもお父さんとお母さんが決めたことで納得しているし、私の頭の半分以上を占めているのは村瀬さんのことだ。

 きっと大は、店がなくなることに対して私が落ち込んでいると思っているんだよね。