グンと背伸びをして、戸棚の上にある紅茶缶に手を伸ばしていると、軽々と村瀬さんが取ってくれた。

「すみません、ありがとうございます」

 お礼を言って受け取ろうとしたものの、渡してもらえず。村瀬さんはまるで子供を叱るような顔でジッと私を見下ろす。

「あの、村瀬さん……?」

 小首を傾げると、彼は深いため息を漏らした。

「お腹が目立ってきたんだ。お願いだから無理しないでくれ」

「え……でも、これくらいは大丈夫ですよ? 先生にも動いたほうがいいって言われていますし」

 そう言っても、村瀬さんは顔をしかめたまま。

「じゃあせめて、高いところの物を取りたい時は俺を呼んでくれ。背伸びしてバランスを崩し、転んだらどうする?」

 そんな漫画みたいな転び方、しないと思うんだけどな。……とは、本気で心配している彼に言えそうにない。

 妊娠五ヵ月目に入り、お腹の膨らみを目立つようになってきた。そうなると村瀬さんはますます過保護になり、こうして些細なことで心配される毎日。

「わかったか?」

「はい」

 返事をすると、やっと彼の表情がやわらいだ。