指切りをして交わした約束は、ただの社交辞令。村瀬さんに私は、女性として見られていないはず。そう、思っていたんだけれど……。

「さくらちゃん、昨日の厚焼き玉子、すごくおいしかったよ」

 次の日の十八時五十分過ぎ。明日の仕込みをする両親に代わり店先に立っていると、いつものように閉店ギリギリに走ってやってきた村瀬さんは、開口一番にそう言ってくれた。

「あ……ありがとうございます」

 褒められたことが素直に嬉しくて、まともに村瀬さんの顔が見られない。

 そ、それよりもまさか今日村瀬さんが来るとは思わなかったから、完全に気を抜いていた。続けて買いに来ることは少なかったし、日を空けて来てくれることが多かったから。

 私の顔、大丈夫かな? 化粧崩れひどくない? 今日は季節外れの暑さで、だいぶ汗を掻いたから心配。

「だしがよくきいていて、なによりふわふわしていて、俺好みの卵焼きだったよ」

 でもそんな心配も、こうして村瀬さんに褒めちぎられると気にならなくなる。

 嬉しい、自分の作った料理が村瀬さんの好みだったなんて。本当に勇気を出して作ってよかった。両親にも感謝しないと。