「違います。……おじいちゃんは村瀬さんのためを思って、私と釣りをしてこいって言ったんです」

「どういうことだ?」

 首を傾げる村瀬さんに、さっきおじいちゃんに言われたことをそのまま伝えた。

「男にしかわからんことだが、結婚の挨拶ほど神経がすり減るものはない。ここにいたら気が休まらんだろうから、釣りに連れ出してやれって」

「そう、だったのか……」

「それとおじいちゃんは、新鮮な魚料理を村瀬さんに振る舞いたいんだと思います。……昔、私が結婚相手を連れてきた時は、とびっきりおいしい料理を振る舞ってやるって口ぐせのように言っていたので」

 もしかしたら誰よりも村瀬さんが来るのを待ち望んでいたのは、おじいちゃんなのかもしれない。

 それにさっき、『いい男をつかまえたな』って言われた。つまりおじいちゃん、居間でのやり取りに聞き耳を立てていたってことだよね?

「じゃあ俺は、さくらのご家族全員に認められたと思っていいんだよな?」

 まだ不安は拭えないようで聞いてきた村瀬さんに、すぐに答えた。

「はい」

 するとやっと安心できたのか、村瀬さんは足を止めてその場にしゃがみ込んでしまった。

「よかった」

 深いため息とともに漏れた安堵の声。

 私も同じように膝を折って、彼の顔を覗き込んだ。