「……ちゃん、さくらちゃん!」

 弥生さんの声にハッとすると、洗い物をする手はすっかり止まっていた。

「あぁ、もう水出しっぱなしにして……。どうしたの? ここ最近、ボーッとしているけど」

「すみません……」

 水道の蛇口を閉めてくれた弥生さんに、ただ謝ることしかできない。

 村瀬さんとのデートから十日あまり。仕事をしている時も通勤中も、家にひとりでいる時も、ふとした瞬間に彼のことを考えてしまっている。

「なにか悩みがあるなら、いつでも言ってね。無駄に年を重ねているわけじゃないんだから、なにかアドバイスできるだろうし」

 得意げにドンと胸を叩く弥生さんに、思わず笑ってしまった。

「ありがとうございます」

 弥生さんの気持ちは素直に嬉しい。けれど村瀬さんとのことは、口が裂けても話せないよ。

 好意だけありがたく受け取り、残っていた洗い物を手伝ってもらい、みんなで昼食の時間を迎えた。


 村瀬さんに『少し、考えさせてください』と言ったのに、十日経っても答えは出ずにいる。

 むしろ時間が経てば経つほど、答えから遠ざかってる気がしてならない。