「私以外の女性と結婚するつもりはないだなんて、どうして言えるんですか?」
 感情は昂ぶり、こらえていた涙が零れ落ちた。すると村瀬さんは慌てて駆け寄り、私の目に溜まった涙を拭っていく。

「泣かないで。……誤解だから」

「そんな……! だって私、聞きましたよ? 早乙女さんが話しているのを。それに村瀬さんには、早乙女さんのような女性のほうがお似合いじゃないですか」

 つい可愛げのないことを言ってしまった。でも言いたくもなる。どう考えても私より早乙女さんのほうが、村瀬さんの隣に立つに相応しい人だもの。

 なんて自分で思って虚しくなっていると、村瀬さんは優しく私を抱きしめた。

 一瞬にして包まれた彼のぬくもり。そして鼻を掠めたのは、彼がいつも付けているウッディの香り。

「む、村瀬さん……?」

 突然の抱擁に声が上擦る。それほど私は激しく動揺していた。そんな私を落ち着かせるように、村瀬さんの大きな手が私の背中をゆっくりと行き来していく。

「俺は他人にどう思われようと、心から愛した人と結婚したいと思っている。……もちろん昔は、会社のために結婚してもいいと思っていた。でも俺は、さくらちゃんと出会えたから」

 彼の手は背中から頭へ移動し、優しく撫でた。