ー飛鳥sideーー


「おかえり、翔」


私より少し遅く帰ってきた翔に声をかける。
少しも少しで、あと30秒貴哉くんと喋ってたら、下で会ってたかもなってくらい。


「先お風呂入っていい?」

「あ?何でだよー、バイトして帰ってきた俺じゃなく、貴哉きゅんとおデートしてきた飛鳥が先とか!」


言い方ムカつくな。

何だよ、貴哉きゅんって。
何だよ、おデートって。

仕返ししてやろ。


「…じゃあ、一緒に入る…?」

「あんまりジョークでもないテンションで言われると困るんだけど。いいよ、入って来いよ」

「やった、ありがと」


さすが私の兄だ。あれくらいの爆弾発言は華麗にスルーした。
部屋を後にしようとすると、


「あ、そういや」

「ん?」

「お前、貴哉に送ってもらったん?」

「ああ…。送る!って、絶対譲らないから」

「はあ、やっぱり」

「え?何?」

「下ですれ違ったの、暗かったから微妙だけど、多分貴哉だわ」


まさかの、兄と遭遇する貴哉くん。


「てか会釈されたわ」

「貴哉くんらしい、何それ!まさか、遺伝子感じたのかなー」

「いや、多分そういうんじゃないな、あれ。
俺の存在に気付かないでちょっと独り言言ったの、恥ずかしかったから会釈して誤魔化したんじゃね」

「貴哉くんが独り言?」

「さすがに何て言ってたか知らんけど、浮かれてる感じだったな」


…何故?まあ確かに、いつもより終日テンションは高かったかもだけど。


まあいいや、お風呂入ろ。