地学の教室に行くと、貴哉くんは何故か唇を尖らせて携帯とにらめっこしている。


「貴哉くん…?」


私に気付くと、顔を上げて優しく微笑む。


「んあー、飛鳥ちゃん。おはよー」


おはよーの時間でもないか、と呟いたのもバッチリ聞こえたよ。


「ん?何、不思議そうな顔して」

「いや…唇尖らせて不満そうな顔してたから」

「えーっ!不満とか無いよー」

「じゃあ無意識?」

「表情筋動かして小顔トレーニング、的な?」


元々小顔が何言ってんだ。


「飛鳥ちゃん早く来ないかなーって、俺待ってたんだよ?ん?…あ、不満だったのか」


自己解決しちゃったし。

やっぱ、こうやって待っててくれる人と一緒にいたい。


「飛鳥、ちゃん…?」

「えっ、あっ、何?」

「今日は体調大丈夫?」

「体調は特に異常無し、かと」


急にどうしたんだ。
1回風邪で倒れると、ここまで心配されるもの?


「…じゃあ、さっき何かあった?」


察しが良すぎるんですが…?そんなに顔に出てたかな。


「何か、って?」

「何かは何かだよ。お弁当引っくり返しちゃったとか…誰かと何かあったとか」


ただの勘だろうか。

それとも…凜や知愛との関係に、違和感を覚えていたのか。
少なくとも彼女らにも週1で顔を合わせるから、感じることもあったのかもしれないけど。


「ううん、何も無いよ」


気付けば否定していた。

貴哉くんには、どうしたってそんな弱い部分を気付かれたくなくて。
何でだろう?

1度嘘をついたら、嘘を重ねないといけないけど…。

貴哉くんにまで嘘をつかないといけないなんて、思ってもみなかった。