ー飛鳥sideーー


金曜日。

数IIの後、ほぼ成り行きの形で、凜と知愛と昼休みを過ごすことになった。

2人で好き勝手喋っていて、私はぼんやりしながらおにぎりを頬張ることに徹する。


「ねえ、飛鳥ちゃんさー」


突然凜に名前を呼ばれる。


「えっ、何?」

「うちらのこと、面倒くさいとか思ってたりしない?」


“たり”は2個続けないと使えないんだよ。
あー、でも今のは例示の“たり”なのか。
だったら単品使いもできるかもしれない。
…日本語の文法で、意外と厄介な単語よね。

…って、そんなこと気にしてる場合じゃない。


「面倒くさいって、どういうこと…?」


言いたいことは何となく分かってる。
だけど、一応聞いてみることにした。


「最近、昼休み一緒じゃないじゃん?
だから、うちらといるの嫌なのかなーって」


思ってたよりオブラートに包んだ言い方をされたけど、まあ予想通りか。

嫌っていうか、2人といるより貴哉くん達といる方が話も合うし、断然楽しいからそっち選んでるだけだよ。

…なんてことは言えない。

余計なこと言っても後々面倒事になりそうだしな…。


「別にそんなことないよ?たまたま、最近貴哉くんとかといること多いだけ。
凜も知愛も、優しいし面白いし」


あー、嘘ばっかり。優しいとは思ってるけど。

あまりにもスラスラと、思ってもないことを言えてしまう自分が嫌になる。

耳に入る私の声が、まるで他人に乗っ取られて、自分の声じゃないみたいで、気持ち悪かった。


「へえ…そうなんだ。良かったー」


凜は、口ではそう言いながらも、明らかに納得してないみたいな顔をしてくる。


「じゃあ、そろそろ行くね。トイレも寄りたいし」

「うん」


教室を後にした。

居心地が悪かった。
勝手に、自分でそうしただけな気もするけど。

そういや、知愛は何も言ってこなかったな。
私を庇うでも、凜に加担するでもなく。

無言の肯定ってとこか。凜の言ったことに、異論は無いんだろう。