手首を解放された私は、貴哉くんの方に体を向ける。自覚するくらい、心臓がドキドキしている。
しかも何だ、見上げた貴哉くんの表情は、いつになく大人っぽく見える。
「えっ…と」
「ちょっと、ごめん」
「へっ…?!」
突然謝ってきたと思ったら、私の胸元に手を伸ばしてくる。
なななななっ、何っ!?
戸惑っていると、貴哉くんは私のカーディガンのボタンを外し始める。
「なっ、何し…」
改めてカーディガンを見て、やっと気付いた。
「さっきから、カーディガンのボタンが段違いなの、すんごい気になってて」
「あっ…ああ…。
だからぼんやりこっち見てたのか」
「そう。もしあの2人が気付いてなかったんだとしたら、飛鳥ちゃんに2人の前で恥ずかしい思いさせちゃうかなって」
気の回し方が人並外れてる。
大人っぽい表情に見えたのは、お兄ちゃんスイッチが入っただけか…。
…てか、告白されるとか、アホな勘違いしたのは誰だったかなっ!
「段違いって…飛鳥ちゃん、まだ風邪治ってないんじゃない?いや、寝過ぎて寝惚けてるでしょ」
「貴哉くん、聞いたことないくらい毒舌化してるんだけど」
「ちょっ…あんま動かないで?」
「あっ、留めにくいか…」
「んんっ…というより、その…余計な所触っちゃマズイでしょ…?」
余計?…何で貴哉くん、ちょっと照れてるの?
それにしても、優しい手つきで留めてってくれる。
…ああ、今日はマスクしてて良かった。
少しだけ、私も顔が赤くなってるのが分かるから。



