授業が終わって、帰り支度をしながら。


「飛鳥ちゃんごめんね」


彼女は一瞬ビクリとし、動きを止めて俺を見つめてきた。

何?ってことか。


「俺が先に気付けてたら良かったよね。飛鳥ちゃんのこと遅刻させちゃったのは、俺の確認不足もあるなーって思って」

「それ言ったら私だって確認不足だったんだから、お互い様じゃない?」

「んー…そっかぁ」


そんなこんなでのんびり被服室を後にして。

まあ、普通こんなんで「ふざけんな!あんたのせいだ!」なんて言う子はいないだろうけど、そうだとしても飛鳥ちゃんは、他人のことを責めることはしない。

好き。

心の中で告白しておいて…っと。


「あっ、妹尾」


エントランスで、佐倉くんに遭遇。

遭遇って…俺は佐倉くんを熊か何かだと思ってるのか。


「佐倉くん、今帰り?」

「そうだけど…妹尾の台詞奪うんじゃないよ」

「えあっ!飛鳥ちゃん、聞きたかった?」


ムゥンとした表情で、


「ママにエレベーターのボタン押されちゃった3歳児を宥める感じやめて?」


なんて言ってくる。


「こういう娘いたら、手がかかりそうだな」

「失礼なっ!」


佐倉くんが、いたずらっ子な少年のような顔で笑う。

よく飛鳥ちゃん、この笑顔で恋に落ちないな。

俺もう、微塵もチャンス無いんじゃない?
これを超えるキュンを、飛鳥ちゃんに提供できる気がしないんだけど。