君と紡ぐ物語は、甘くて愛おしい。



ー貴哉sideーー


ええ…これは、どういうことだろう?

10月中旬、水曜日。帰ろうとしたら雨が降ってくるなんて。

そして、こういう時に限って折り畳み傘を持っていない、そんな不運な男なのです。

雲さん、雨さん、俺は何か悪いことをしましたか?

こんにちは、貴哉です。十羽…貴哉です。


為す術もなく、エントランスを出た屋根のある所で立ち尽くすしかない。

徒歩20分だもんね。濡れて帰りなさいとのことですね?帰れるよ。

すぐお風呂入れば問題無いよ。明日も元気にスクールライフだよ、きっと。


「貴哉くん?」


聞き慣れた声がして振り向いた。

飛鳥ちゃん!…と、横には佐倉くん。


「…妹尾に対してと、俺に対しての目が違う」

「女神と悪魔が目に入ったから当然の反応です」

「誰が悪魔だ。天使だろ」


男子会の時、何だかんだ色々教えてくれたり、それ以前だって何かと協力してくれたりしたもんね。

ある意味天使なのかもしれない、うん。


「佐倉がっ…天使っ……」


飛鳥ちゃんのツボに入ったようで。

…まあ、服装も黒っぽいのと、ロングカーディガンが多いし、悪魔とか魔王とか似合うよなぁ。


「で、貴哉くん。何でそこ突っ立ってんの?」

「傘忘れちゃって。
頑張って走って帰ろうかなーって思ってたとこ」

「ああ…そうなんだ」


…なんか、俺がダメな子なのを露呈してる気分。


「ふぅーん、じゃあ私の貸す?」


飛鳥ちゃんが、平気な顔でそんなことを言いますが…どうやって帰るつもりなんだ?

…あぁっ!佐倉くんと相合傘かっ!
佐倉くんが飛鳥ちゃんに恋しちゃうでしょ!
いや、逆も然り!それは困る!


「だっ、ダダっ…ダメ!!」

「へっ?」


めっちゃ噛んじゃった!


「…いや、私のそんなに可愛い感じのじゃないけど」


そこに躊躇ってるんじゃないんだよ!

そう心の中でツッコんでいると、佐倉くんが俺にニヤリとしたように見えた。


「俺と妹尾が、相合傘して帰るのが気に食わないと?」

「えぇっ?!」


そういうニヤリかっ!

あえて煽って俺に何か促してるのか。
それとも…佐倉くんスイッチがオンなのか!

あ、絶対後者だわ。


「そりゃ、気に食わないっ!」

「へーえ」


佐倉くんは妙に口角を上げる反応を見せる。

…確信。