ー飛鳥sideーー


今日の最初の授業は地学基礎だ。
文系の私にとっては、なんとなく憂鬱と言えば憂鬱。
でもまあ、文系にも優しい理系科目らしいから、期待しておこう。

この高校の授業は自由席が多め。
大抵は出席番号順の指定席だけど。
もしかしたら地学は自由席かもしれない、そう思って早めに来た。

私はいつも、自由席の時は後ろの方をキープしている。何となく、背後に人がいるのが好きじゃないからかな。何なら隣にも、知らない人がいるのは落ち着かない。


だけど、今回は違うみたいだ。


「ねえっ、隣いい?」


リュックから教科書やペンケースを出していると、右側から声が聞こえる。
体勢はそのままで、顔だけ上げた。

少しだけ不安そうにも見える笑顔を浮かべながら、私をまっすぐ見つめる男子がそこにいた。


「いい…けど…」


思わずそう返した。直感的に、私の警戒センサーに引っかからなかったからだと思う。

私が手に持っていた物を机に置いていると、彼はふぅ…と息をついて、


「良かったぁ…!」


と、安堵の様子だった。席に着き、私と同じように物を出していく。


彼の第一印象…。
雰囲気から察するに、おそらく新入生。
そして純粋で綺麗な子。
綺麗って、中身もそうだけど、外見も整っている。
それも、無自覚タイプっぽい。

自分が所謂、美少年・イケメンの部類に入ってるなんて、まず思ってないだろう。

サラサラかつフワフワした自然な茶髪に、控えめな平行二重で、上品な顔立ちという感じだ。

小説に出すなら、“クラスの人気者、無自覚モテ王子”ってとこか。誰も文句無しの圧倒的ヒーロー。


さて、ここで疑問が生じる。
彼が私の言う“モテ王子”なら、何故急に声をかけてきたんだ…?私はヒロインなんかになれない。絶対ありえない。ここから恋が始まるとか、1ミリは思ったかもだけど…ない!

急にイケメンに声かけられたら、どんな女子だって勘違いしちゃう。ただそんだけ!

まだ授業まで時間はあるから席は充分空いてる。
それなのにわざわざ私の横に来る理由って何…?


醸し出してる“慣れてる感”に気付いて、先輩だから一緒にいたら何かと役に立つとか?
それだったら、正当な理由として納得がいく。