翌日。
まだ授業が本格的に始まってないからか、全然疲れてない。
正確に言えば、初めての感覚のせいで疲れてる。
でも何だろう。それは嫌な疲れじゃない。
“また彼女に会えるかもしれない。”
何の確証もないのに思ってしまう。
それでだな。
いつもより念入りにヘアセットしちゃって。
いつもより念入りに服のシワ気にしちゃって。
いつもより気持ち多めに化粧水なんか塗り込んじゃって。
母さんが化粧品メーカーで働いてることもあり、他の同世代の男子より化粧品に近い。
「肌が綺麗だと、人に好印象を与えられるの。特別なことはしなくていいけど、洗顔後に化粧水くらい塗りなさいよ?」小6の時に言われて、それ以来欠かさず塗っている。
だから化粧水を塗ることは特別なことじゃない。
肌荒れ知らずの自分の肌は、俺の自慢。
自分で用意した朝ご飯を食べて、
食器を片付けて、
歯を磨いて、
香水を手に取って…
「違うじゃん!!」
好きな人ができるってこういうことなのか。
思わず部屋で叫んでしまう。
一応メンズの香水だけど…
それこそ、母さんがくれた試供品。
女の子からしたら、男子が香水つけてるのはどう思うんだろうか?
一旦息を深めにして、香水を元に戻す。
とりあえず香水はやめて、家を出ることにした。
「行ってきます」
と、誰も返してくれなくても玄関で声を出してから出る。
学校に着くと、10時20分を過ぎたくらいだった。
えーっと、授業は何だっけ?地学基礎か。
地学室に着いて中を確認する。
思わず、一瞬足が止まった。
そんな都合良く、いることあるー…?
黒板が目に入り、自由席だと分かる。
…これは、チャンスだ。
さり気なく隣に座って、距離を縮める大チャンスだ。