二人のないしょ話




「小泉さんって、最近変わったよな」

文化祭まで四週間になった頃、クラスでは小泉さんのことが話題になっていた。

俺と話す時とまだ差はあるけど、クラスメートに対して少し穏やかになったから。

「小泉さんのこと、名前で呼んでいい?」

「……好きにしていいよ」

小泉さんではなく、音羽(おとは)ちゃんと呼ぶクラスメートも増えたと思う。

「小泉さんって可愛いよな〜」

そんな風に話す男子が他のクラスにまで登場し始めた。

「席つけ〜。ホームルーム、始めるぞ〜」

小泉さんが、俺の方を振り向き、手話で言う。

「今日の夕方、手話の練習、大丈夫?」

俺は、右手の親指以外の四本の指先を、左胸、右胸の順にあて「大丈夫」と言った。

小泉さんと練習を始めて、たくさんの手話を覚えた。教室でもこっそり話せる。二人だけの言葉みたいだ。