二人のないしょ話

何となく、嫌な予感がした。そしてそれは当たった。

「一緒に練習してくれて、ほんとにありがとう。でも、もういいの。文化祭で手話はしなくていいから……」

「えっ!?どうして?何で、そんなこと……」

小泉さんは、何も言わずに教室を出て行った。



文化祭まであと一週間になった。

小泉さんとは、あの日以来、一言も話していない。

手話をしないという噂がクラスに流れ、友達に「手話しないの?」と何度も訊かれた。

でも俺は「わからない」としか言う言葉が見つからなかった。どうして小泉さんはあんなことを言ったんだろう。

「いたいた!神山く〜ん」

隣のクラスの女子が走って来た。

「私、新聞部なの。どうして手話をやめるのか、教えてくれない?内容によっては、ちゃんと取材したいし……」

俺は友達やクラスメートに、小泉さんがやめると言ったことを話していない。話したところで、何も変わらない。逆に何かが起こったとしても、それはみんなが小泉さんを追い詰めて、小泉を傷つけるだけだと思っていたから……。