かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました

「荻原さん、本日は中国進出の際、取引が生じる会社のリストを頭に叩き込んでください。重役もすべてです。実際に着工した際、副社長との間に入ってやり取りしていただきますので」

「はい、わかりました」

 受け取った資料には、たくさんの付箋が貼られていて、重要なところはマーカーで記されている。

「お忙しいのにありがとうございました」

「いいえ、お気になさらずに。では私はこれから副社長と共に打ち合わせと会食へ向かいます。十四時には戻れるかと思います。……たしか本日は荻原さんも、昼休みは外出されるんですよね?」

「はい、近くの会社に勤める友人と約束がありまして。もちろん昼休みの時間内には戻ってきます」

「ごゆっくりなさってきてください。それとなにかありましたら、私の携帯にご連絡を」

 そう言うと山浦さんは手短に準備を済ませ、颯爽と秘書室を出ていった。

「さて、しっかり頭に叩き込まないと」

 席について、山浦さんが用意してくれた資料に目を通していく。

 社内は海外進出の準備で、なにかと忙しい。それは新入社員の私たちも肌で感じるほど。特に副社長である誠司君は多忙を極めている。

 少しでも誠司君のサポートができるよう、早く仕事を覚えないと。

 わからないところはネットで検索して、資料に書き込もうと手にした万年筆。それは将生からもらったもの。