かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました

「えっと、おはよう」

「おはよう」

 誤魔化すように挨拶をすると、野沢君は笑いながら返してくれた。
 どうやら見られなかったようだ。

 ホッとし、指輪はポケットに忍ばせた。そのまま肩を並べて会社へと歩を進める。

「昨日さ、先輩と初めて取引先に行ったんだけど、緊張でなにも覚えていないんだ。でも先輩に後から話を聞いたら俺、ベラベラ話していたみたいでさ」

 緊張すると口が止まらなくなると言っていた野沢君らしいエピソードに、思わず笑ってしまう。

 営業部のオフィスは秘書課のオフィスと同じ二十四階にあり、なにかと顔を合わせる機会があった。

 その度に野沢君は気さくに声をかけてくれて、他愛ない話をしていた。もちろん私にだけではなく、メッセージでやり取りをしている敬子に聞いた話だと、本社に配属された同期には積極的に声をかけているようだ。

 敬子から二日前の昼休みに社員食堂で出くわし、一緒にお昼を食べることになり、いろいろな話ができたと喜びのメッセージが届いたから。

「荻原はどう? 高嶺の部署でうまくいってる?」

「……どうにか」

 なんて言いながら、野沢君のように先輩たちと打ち解けることはできていないし、仕事も覚えることで精いっぱい。