かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました

 歩道の端で足を止めて、地上二十五階の本社ビルを見上げてしまう。

 こんな大きな会社に入ることができたなんて、今でも信じられない。夢じゃないんだよね。

 バクバクとうるさい心臓を鎮めるように深呼吸をした。

 ここで学生時代のように将生の存在に翻弄されることなく、自分らしくやっていきたい。学生結婚している人たちなんてそういないし、指輪をしているだけで目立ってしまうはず。

 強く外すなよって言われたけれど、指輪は外しておこう。家に帰る前にまたはめればいいよね。

 指輪を外して大切にバッグにしまい、玄関へ向かった。


 エントランスを抜けると新入社員用の案内板があり、それに従って一階の奥へと進んでいく。

 廊下の先には大ホールがあり、入口には受付が設けられていた。すでに多くの新入社員がいて、一気に緊張が増す。

 受付を済ませてホールに入ると、たくさんの椅子が並べられていた。席は決まっておらず自由のようだ。

 誰もが初対面のはずなのに、いくつかグループができていて焦りを覚える。

 みんなどうやって声をかけ合ったんだろう。

 会社勤めすることができたら仕事を頑張りたいのはもちろん、友達を作りたいと思っていた。
 自分から声をかけたい気持ちはあるものの、小心者の私にはその勇気が出ない。

 それにひとりでいる子は、話しかけないでオーラを出しているし。