かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました

 どうにか「わかってる」と返事をし、残りのご飯を急いで食べた。

 その後はふたりで片づけを済ませ、いつもだったら私は家事に取りかかるところだけれど、今日は将生とともに準備に取りかかる。

 真新しいスーツに袖を通すと、気持ちが引き締まった。鏡に映るスーツ姿の自分をまじまじと見つめてしまう。

「せっかく入社することができたんだから、今日から頑張らないと」

 応援してくれている将生のためにも。

 鎖骨まであるパーマがかかった髪をうしろでひとつに束ね、気合いを入れて部屋を出ると、ちょうど準備を終えた将生も洗面所から廊下に出てきた。

「準備できたか?」

「うん」

 戸締りを済ませ、ふたりで玄関へ向かう。買ったばかりのパンプスを履き終えると、急に将生が私の左手を掴んだ。

「え、将生?」

 私の呼びかけには答えず、なぜか彼はジッと私の左手を見つめている。

「どうしたの?」

 不思議に思いながら聞くと、将生は薬指にはめている結婚指輪をそっと撫でた。

「これ、絶対外すなよ」

「えっ」

 鋭い視線を向けられ、私の気持ちを見透かされている気がして変な汗が流れそうになる。

 村瀬の姓を名乗らず旧姓で働く以上、会社では指輪を外すつもりでいたんだけれど……。

「いいな?」

 念を押され、思わず「うん」と言ってしまった。