「ふたりともありがとう」

 感謝の思いを口にすると、ふたりの表情が和らいだ。

「気にするな! ……ちゃんと素直になれよ? でないとどこの馬の骨ともわからないやつに、小毬ちゃんを奪われるぞ? 来月から小毬ちゃん、社会人になるわけだし」

「あぁ、わかってる」

 それも、昔からどんなことでも勝つことができなかった兄さんがいる会社に入社するんだ。

 小毬も昔から兄さんにはすごく懐いていた。兄さんは小毬のことを妹としか見ていないようだけど、この先はどうなるかわからない。

 だから無理してでも仕事が忙しい時期に、結婚式を挙げたんだ。小毬を自分のものにするために。

 小毬を手に入れるために無我夢中だったが、改めて自分を見つめ直すと、考えかたも言動もすべて幼いと思う。
 情けなく思うが、小毬のことだけは手離したくなかったんだ。

「小毬ちゃん、可愛いもんなー。きっと会社の男たちは小毬ちゃんに夢中になるぞ?」

 からかい口調の洋太に、冷静に言った。

「それは大丈夫。……対処済みだから」

 そこまで言うと、沢渡さんがいつものように淡々と言う。