かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました

「えっ? でも会社に行くのはまずいのでは?」

 私、部外者だしまだ残っている社員もいるよね?

 だけどふたりは引き下がらない。

「大丈夫です、この時間ですとほとんどの社員は残っておりませんので」

「それに小毬ちゃんは社長夫人だよ? べつに会社に顔を出しても、変じゃないから」

 そう言うと秋田さんは、こちらに来てがっちり私の腕を掴んだ。

「浩美さん、タクシー停めてきてもらえる?」

「はい、もちろんです」

 そのまま私はふたりによってタクシーに乗せられてしまった。

「この時間ですと、二十分ほどで着くかと思います」

 助手席に乗った沢渡さんは、どこかに電話をかけはじめた。後部座席の私の隣には秋田さんが乗っている。

「ごめんね、半ば無理やり乗せちゃって」

「いいえ。あの、でも本当に大丈夫なんですか? 私が会社に行っちゃって」

 将生に会ってすぐに気持ちを伝えたいけれど、やっぱり部外者の私が行ったらだめな気がする。

「本当に大丈夫だから気にしないで。……今回の件に関してはさ、俺たちの責任でもあるから、早くふたりには仲直りしてほしいんだ」

「え、どういうことですか?」

 そこで初めて、将生がここ最近忙しかった理由を知った。

 沢渡さんの実家は老舗の和菓子屋。だけど経営難に陥り、そこに取引先から彼女への縁談話が持ち上がったらしい。縁談を受けるなら、全面援助すると。