かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました

 ちょうど横断歩道の信号が赤で、すぐに追いつくことができた。

「敬子!」

 夢中で名前を呼んで腕を掴むと、敬子はびっくりして身体を大きく反応させた。

「小毬……」

 泣いていたのか目が赤い。それを見て胸が痛くなる。

 すると敬子は慌てて目元を拭い、顔を伏せた。

「どうして追いかけてきたの?」

「それは……」

 無我夢中で追いかけてきたけれど、どう説明すればいいのだろうか。

 頭を悩ませていると信号は青に変わり、歩道は人の行き来が激しくなる。どちらからともなく邪魔にならないよう端に寄り、私は掴んでいた敬子の腕を離した。

「ねぇ、小毬……正直に話して」

「えっ?」

 敬子は真剣な面持ちで私に言った。

「小毬も野沢君のことが好きなの?」

「ちがっ……! 違うよ!」

 すぐに否定しても、敬子は納得していない様子。

「私が最初に野沢君のことを好きって言っちゃったから、言えずにいるんじゃないの? だったら言ってほしい」

「本当に違うの。私は野沢君のこと、好きじゃない」

 わかってほしくて繰り返し言うと、敬子は表情を歪めた。

「そんなわけないでしょ? この前、朝ふたり一緒に出勤してきた時もさっきも、いつもと様子が違ったじゃない! ……どうして話してくれないの? 私たち、まだ知り合ったばかりだけど、友達だと思っているのは私だけだった?」