かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました

 そうだ、今、私の目に映っているのがいつもの将生だ。私と一緒にいる時は不機嫌そうで冷たかった。

 やっぱりさっきのはなにか意味があっての演技だったのかもしれないと考えていると、将生は私の部屋の前で足を止めた。

「え、あっ……将生!?」

 そこは私のプライベート空間。それを見られるのは恥ずかしい。なんて言う間もなく、彼は迷いなく私の部屋のドアを開けた。

 部屋の中を確認するとドアに寄り掛かり、威圧的な目を向けられ怯んでしまう。

「小毬、説明してくれる? どうしてベッドがふたつあるのか」

「え……だってそれは……」

 お互い好きじゃないのに、夫婦って理由で一緒に寝るのもどうかと思うし、このほうが私も将生もいいと思ったから寝室を別にしたわけで……。
 とは言葉が続かなかった。

「たしかに小毬に家具や配置は一任したけど、寝室が別なのは却下。絶対一緒に寝るから」

 説明してくれる? なんて言っておきながら、有無を言わさぬ物言いにタジタジになる。
 だけどここで押し黙るわけにはいかない。

「ベッドはふたつあったほうがいいでしょ? ……私にとっても、将生にとっても」

「どういうことだ?」

 すぐさま聞いてきた将生に、自分の気持ちをぶつけた。

「結婚はしたけど、将生と夫婦になるつもりはない」

 はっきりというと、将生は目を見開いた。

 どうしてそんなに驚いているのだろうか。だって将生も同じじゃないの? だから今までずっと私に冷たかったんだよね?