かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました

 思わず大きな声が出てしまうと、山浦さんは目を見開いた後、めずらしく頬を緩めた。

「やる気十分で嬉しい限りです」

「……すみません、大きな声を出しちゃって」

 それから山浦さんに、朝出勤してからするべきことを教えてもらった。来客用のお茶の準備に副社長室の清掃。誠司君が毎朝読んでいるビジネス新聞の手配。それとメールのチェックと郵便物の確認。

 週に一度は飾ってある花を変え、最後に誠司君の一日のスケジュールの確認をする。

 それらすべてを山浦さんひとりでこなしていたのかと思うと、もう尊敬しかない。

 おまけに来客ひとりひとりの好みまで把握しているらしい。コーヒーか紅茶か、それともお茶か。砂糖やミルクは入れるのか、濃いめがいいのか……。

 そこらへんはおいおい覚えていってくださいと言われたけれど、覚えられる自信がない。その前に取引先の人の名前と顔を覚えないと。

「どうですか? 仕事には慣れましたか?」

 教えてもらったことを必死にメモに記していると聞かれ、すぐに答えた。

「はい、覚えることがたくさんで大変ですが……。責任とやり甲斐がある仕事ですが、山浦さんが丁寧に教えてくださるので、少しずつ慣れてきました」

「それを聞いて安心しました。……秘書課の社員に、なにか困ったことはされていませんか?」

「……はい、それも大丈夫です」