かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました

 優しい眼差しを向けて囁かれた愛の言葉に、ドキッとしてしまった。

「だからどうしようもないほど好きになる前に、荻原が結婚しているって知れてよかったよ。傷はまだ浅いからな」

 冗談めいて言うのは、野沢君の優しさだよね。私のためを思ってでしょ? だからこそちゃんと伝えたい。

「ありがとう、野沢君。こんな私のことを好きになってくれて」

「どうしたしまして。……旦那さんと幸せにな」

「……うん」

 将生とは結婚しているけれど、本物の夫婦とは言い難い。私がまだ彼のことを好きなのかわからないんだから。

 だから真っ直ぐに『幸せにな』と言われると、チクリと胸が痛む。

「あ、そろそろ出ないと会社間に合わないな。行こうか」

「そうだね」

 コップを返却してカフェを出ると、ホームに向かいながら野沢君は改まって言った。

「さっきも言ったけど、失恋の傷は浅いからさ。これからも今まで通りにしてほしい。同じ本社に配属された仲間として、切磋琢磨していきたいから」

「うん、もちろんだよ」

 ホームに降り立ち、電車の到着を待つ。

 私からしてみれば願ってもないことだ。だけど、本当にこのまま野沢君に甘えてしまってもいいのだろうか?