かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました

「着替えてくるから、弁当温めておいてくれる?」

「あ、うん、わかった」

 どうにか返事をすると、将生はバッグを手に廊下を数歩進んでまた止まった。

「俺の部屋は奥?」

「う、うん」

 玄関から入って手前にある部屋が私。奥の広いほうを将生の書斎兼寝室にした。

 何度も首を縦に振ると、彼は「ありがとう」と言いながら寝室へと入っていく。

 ドアが閉まった瞬間、身体中の力が抜けてその場に座り込んでしまった。

 えっと……どういうこと? なにがなんだかわからない。将生は私のことが嫌いで、結婚は仕方なくしたんじゃないの?

 この家には私と将生しかいないのだから、演技をする必要はない。それじゃあの将生はなに? ……冗談ではなく、本当に変な物でも食べた? それとも大嫌いだった人が、突然好きになる魔法の薬を飲んだの?

 そこまで考えてガックリ肩を落とした。

「そんなわけないじゃない」

 ゆっくりと立ち上がり、弁当が入っているビニール袋を手に取った。

 私を好きなように振る舞う意図があるのかもしれない。でもそれっていったいなんだろう。

 いまだに玄関先で考え込んでしまっていると、勢いよく将生の部屋のドアが開いた。

 その音に驚きながらも将生を見ると、ジャケットを脱いだワイシャツ姿の彼は、不機嫌オーラを纏ってスタスタと廊下を突き進んでいく。