かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました

「そう思って、帰りに弁当買ってきたんだ」

 弁当って……嘘、将生がわざわざ買ってきてくれたの?

 これまでの将生の言動を思い出すと信じられない。嫌いな私の分まで買ってきてくれたなんて。

 呆然としていると、なぜか将生は弁当やバッグを玄関先に置いた。そして私に向かって両手を広げると、そのままギュッと抱きしめられた。

 一瞬にして将生のぬくもりに包まれ、微動だにできなくなる。

 え、なにこれ。いったいなにが起こっているの? 将生が私を抱きしめるなんてあり得ないのに。
 それなのに彼は苦しいほど私を抱きしめるから、ますます頭は混乱するばかり。

 どれくらいの時間、抱きしめられていただろうか。ゆっくりと身体を離されると、大きな手が頬に触れた。自然と彼を見ると目が合う。

「ただいま、小毬」

「あっ……おかえり」

 優しく微笑みながら言われ、かあっと顔が熱くなるのを感じながらどうにか言葉を返すと、将生は満足気に笑う。

 久しぶりに見る笑顔に目を瞬かせた。

 いつぶりだろう、ふたりっきりの時に将生が笑ったのは。思い出せないほどずっと昔なのはたしかだ。

「いいな、家に帰ったら小毬がいるの。……これが一生続くと思うとたまらない」