かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました

 言い返すと吉井はグッと唇を噛みしめたあと、大きく息を吐き厳しい目を俺に向けた。

「そうよ、大好きな小毬をいつも傷つけていたあんたのこと、大嫌いだった。……小毬から村瀬が学生時代、どうしてあんな冷たく接していたのか聞いた。それと、他の子と付き合っていた理由も。でも他にもっと小毬を守る理由はあったんじゃないの?」

 最もなことを言われ、胸が痛む。

「今なら間違いだったと気づけるが、昔はあれが最善の策だと思っていたんだ。ただ、小毬を傷つけたくなかった。……それにあの頃は男と女が一緒にいて話しているだけで、周囲はなにかと勘繰るだろ?」

「それはっ……そうだったけど」

 思春期特有のものだが、男子は男子、女子は女子同士でいるのが普通だった。そんな中、一緒にいるクラスメイトがいたら、『付き合っているんだろ?』なんて言われ、からかわれるのは日常茶飯事だった。

「だから学校では話さないのが一番だと思ったんだ。それを小毬も理解してくれていると勝手に思っていた。……あと、俺が素直になれない気持ちも」

 付け足し言うと、吉井は呆れた様子で椅子の背もたれに寄りかかった。