かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました

「あ、夕食食べるのかな?」

 聞こうと思ったものの、手が止まる。

 大学入学と同時に、お母さんから花嫁修業と銘打って、料理教室に通わされた。だからそれなりに料理には自信があるけれど、別に将生は私の手料理なんて望んでいないかもしれない。でも一応作るだけ作って、帰ってきてからさり気なく食べるか聞いたほうがいい?

 時計を見ると十六時半を回っていた。

 どんなに早くても、帰ってくるのは十八時頃だよね? 将生の会社からマンションまでは車で三十分以上かかるし。

 急いで残りの片づけを済ませ、軽く身支度を整える。

 たしかマンションの近くにスーパーがあったはず。

 貴重品をバッグにつめて玄関へ向かう。そして靴に履き替えようとした時、玄関の鍵が開いた。その音にびっくりして思わずバッグを落としてしまった。

 すぐに拾い上げるとドアが開く。顔を上げるとそこにいたのは、スーツ姿の将生。私を見て目を丸くした。

「びっくりした、どうしたんだ? こんなところで」

 それはこっちのセリフだ。まさかこんなに早く帰ってくるなんて思わなかった。

「あっ……買い物に行こうと思って。……そうしたら将生がタイミングよく帰ってきたからびっくりしちゃって」

 しどろもどろになりながらも説明すると、将生は手にしていたビニール袋を掲げた。