かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました

 初めて聞く話に驚きを隠せずにいると、小毬は吉井に対して人差し指を立てた。すると吉井はチラッと俺を見る。

「なに? 村瀬には秘密にしていたの? あんなに頑張っていたのに。もしかして他にもいろいろと花嫁修業していたこと、村瀬は知らないの?」

 オーバーに驚く吉井だが、絶対俺が知らなかったことに気づいていたよな? だからこんなわざとらしく言ってきたんだろ?

 でも悔しいが事実だ。なにも知らなかった。そもそも俺は小毬のことで知らないことが多いと思う。

「由良、私は別に将生に知らせる必要はないと思ったから言わなかっただけで……」

「だったらなおさら言わないと。……村瀬と結婚するために、小毬がどんな苦労をして努力してきたのかを」

 そう言うと吉井は、戸惑う小毬を余所に俺に厳しい目を向けた。

「村瀬の婚約者だってだけで、小毬はしなくてもいい苦労やつらい思いをたくさんしてきた。村瀬が想像している以上にだよ? 小毬の手前、一度もあんたに文句を言ったことがないけど、本当は何度も言いたくなったよ。婚約者なら正当な方法でしっかり小毬を守れって」

 吉井の言葉が鋭い刃と化し、胸に深く突き刺さる。

 小毬に嫌な思いをさせないよう、細心の注意を払ってきた。それでも俺の気づかないところで、小毬につらい思いをさせていたのかと思うと、本当に過去を後悔してもしきれない。だが……。