かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました

 義務と言われながら気持ちがないのに身体を求められるのは、正直嫌だったし。……なによりあの時だけ将生の態度が違うから戸惑う。
 だから浮気でもなんでもしてくれたらいい。

 ふと手が止まり、乾いた笑い声が漏れてしまう。

「浮気でもなんでもって……新婚なのに言うことじゃないよね」

 両親たちは、きっと私たちが幼い頃のように仲が良くて、お互い好き合っているから結婚したと思っている。

 結婚式の直前、「大好きな将生君と結婚できてよかったね」「小毬は幸せ者だな」なんて言われたし。

 本当は違う。中学生の頃からとっくに関係は冷え切っていた。昔のような関係に戻れることは、もうないと思う。

 新しい門出に気持ちが沈んでいることに気づき、慌てて首を横に振った。

「暗くなっている場合じゃないでしょ!」

 自分に活を入れて片づけを再開させた。

 来月からは社会人になる。初めて将生とは進む道が違う、新しい生活がはじまるんだ。

 バリバリ仕事をして出世して、仕事を生きがいにしたらいい。会社で友達を作って、第二の人生を謳歌したい。

 自分の部屋の片づけを終え、リビングやキッチンのほうに取りかかっているとスマホが鳴った。

 手を止めて確認すると、新着メッセージ一件ありの文字が。タップして送り主を見ると将生からだった。

【今夜は早く帰るから】

「嘘、早く帰ってくるの?」

 いつも帰りが遅いようだったし、今日も遅くなるんだと勝手に思っていた。さすがに結婚式の次の日だし、みんなに気遣われたのかも。……それとも私と今後の結婚生活について話し合うために、早く帰ってくるとか? ……なんかそんな気がしてきた。

 でもそれは願ってもないことだ。私も将生とちゃんと今後について話したい。