そう言いながら彼の手は、私の背中や髪を優しく撫でた。

「こうしてそばにいてくれるだけで十分なのに、どんどん欲張りになる。小毬のことになると、いつも歯止めが効かなくなるんだ」

 苦しげに告げられた言葉に、私まで胸が苦しくなる。

 ゆっくりと顔を上げれば、艶っぽい表情で見つめられていて、嫌でもドキドキしてしまう。

 歯止めが効かなくなるのは、私もなのかもしれない。
 好きかどうかわからないのに、これまでに何度も将生を受け入れて求めてしまったのは、気づけなかっただけで私は彼のことが好きだからではないだろうか。そもそも好きじゃない人と、恋人がするような行為ができる?

「小毬のその顔」

「……えっ」

「キス、したくなる」

 躊躇いがちに頬に触れた大きな手は、少し震えていた。そして私の気持ちを探るようにジッと見つめてくる。

 今、将生とキスをしたら自分の気持ちがわかるだろうか。

 そんな好奇心と、やっぱり彼にキスして欲しいという欲望が芽生え、『いいよ』と言うようにそっと瞼を閉じた。

 少しして唇に触れた温かな感触。もう何度もキスを交わしているのに、やっぱり緊張して、そして胸が痛くなる。