「お父さんみたいに物凄く賢いわけじゃない。お母さんみたいに、人に優しくできる人間でもない。私は…欲しかった。私にも、たった一つだけでも誰かに誇れる素敵な何かが欲しかった。

憧れてた。だからお父さんとお母さんみたいになりたいって思ってた」



自分でも考えたことの無かった感情が、言葉になって溢れ出る。

私の中の、別の誰かが話しているかのようだった。


瞬きをすると、ポタポタと涙が落ちる。それでも開放された言葉たちは、止まるということを知らなかった。


「どうなるのかわからない。怖い。とりあえず賢い大学に進んでも、ついていけなかったらどうしよう。

何となくついた職場があわなかったらどうしよう。
続けられなかったらどうしよう。

老後のために約二千万円も貯金しなきゃいけないって言われている時代なのに、ほんの数歩先の未来も見えなくて怖いよ……」



ああ、知らなかった。私、本当はこんなに不安だったんだ。


自分の感情は、自分が一番わかっているつもりでも、本当はわかっていないことを初めて知った。


知らないうちに、都合の悪いことは見ないでおこうと感情に蓋をし、ストレスとなって溢れたそれは、行き場を失って自分自身を攻撃するんだ。


「怖いよな。自分の人生がどうなるかわからないのは不安だよな。それでいいんだよ、自分の感情に正直でいいんだ」


神様は目を逸らさずに優しく笑った。それから、少し前のめりになって、私の頭に手を伸ばす。


暖かい手のひらが、そっと私の髪を撫でた。


神様は魔法使いなのかもしれない。涙が滝のように流れ出て止まらなくなる。止めたいとも思わなくなっていた。


ずっと泣きたかったのかもしれない。ずっと誰かに相談したかったのかもしれない。

ずっと、この考えや気持ちは恥ずかしいものだと思い込んで、自分の中に溜め込んでいたのかもしれない。