「小鬼が来た時に、聞いたよな? なぜ舞が苦しんでいることがわかったのかと」


私はあの鳥居の階段のことを思い出し、首を縦に振った。


「あれはな、この世界のものでない者を、あるべき場所に帰す力を働かせていたのだ。
だから、舞もそれに引き寄せられた。

だが、ここに呼ばれた原因を解決出来ていないから、魂と体が分離しそうになった。それに抵抗するために目眩などが起こっていたのだよ」


「え……」


さり気なく、物凄く恐ろしいことを言われ気がする。だから白狐もあんなに怒っていたのか。


もしあの時白狐がいなければ、体と魂が分離して、死んでいたかもしれないと……。


神様は表情を変えることなく、真面目な顔をして続けた。


「人はな、後悔をする生き物だ。何度も何度も、あの時ああしていれば、と。違った道に進んだ時の可能性ばかりを考える」


青く澄んだ空を見つめていた。そうしている間も、願いの声は鳴り響く。


「舞、お前は今、何が辛い? 苦しい? 声に出して、私に言ってくれないか?」


そう聞くのは、私が悩んでいる内容を、わかっていないわけではないのだろう。
ただじっと、真剣な眼差しで私の目を見ていた。



「……辛い。苦しい。私には夢がない。もうすぐ大学受験なのに、やりたいことが何も無い」


私は催眠術にかかったかのように、口からボロボロと言葉を落としていく。神様の瞳の奥の世界を見つめながら、私は無意識に語っていた。