「まあまあ、私は舞が進みたい道に行ってくれればいいと思うわよ。そういえば、舞は何になりたいの?」

 横から母が仲裁に入る。でも意味がない。その質問は、私を追い詰める言葉でしかないのだから。

 私は、空っぽになったお椀とお箸を持ち、流し台へ運んだ。

「ないよ、なんにも。なりたいものなんてない」

 それだけ言って、リビングから出た。出る途中、「え、でも小さいころは何か言ってなかった?」という母の声がしたが、聞こえていないふりをした。

 そうだ、確かになりたいと思ったものはある。でも、それは『なりたい職業』という意味ではない。

 小さい頃、私の夢は『お父さんやお母さんみたいになること』だった。それは人柄的な意味で、今求められているものではない。それ以外、なりたいと思ったことや将来したいと思うことはなかった。

 小学生の時は、いつか考えればいいと思っていた。中学生の時は、高校生になれば見つけられるものなんじゃないかと思っていた。

だから何にでもなれるよう、普通科の高校に進学したのに。高校二年生になった今、私に目の前に道はなかった。


 将来の夢を決めるのが、こんなにも早いと思っていなかった。いつか、大人になったらって。
そう思っていたのに、決断は意外にも早く迫ってきて。

大学では、なりたいものの専門知識を学ぶような場所だろうに、肝心の『なりたいもの』が私にはない。自分が何をしたいのかもわからない。

 公募制の推薦入試だとか、大学共通テストだとか、一般入試とか。一体何の違いがあって、どの方法が適しているのかもさっぱりだ。