鳥居の道標



「さあ、行け。こちらがお前に相応(ふさわ)しい」


神様がそう唱えると、鳥居についた大量の風鈴が、風に乗って一斉に鳴り始めた。


高い音、低い音、ゆっくりだったり速かったりとバラバラなのに、耳触りの良い綺麗な和音が響き渡る。


その音を聞いていると、心臓の動きがどんどん激しくなって、目眩がした。呼吸が荒くなって苦しい。


風鈴の()が、ガンガンと頭を攻撃しているように感じた。


「ぽふっ」


そんな感触が耳にあった。ふわふわと触り心地の良いそれは、音が聞こえないように塞いでくれているのがわかる。


今にも倒れそうなほど腰が曲がったまま、視線を後ろへ向けると、いつの間にか肩の上に白狐が乗っていた。


音が聞こえにくくなったおかげで、頭の痛みが少し良くなり、また神様の方へ目をやる。


小鬼が神様にぺこりとお辞儀をし、終わりの見えない鳥居の階段を下りて行った。


小鬼が光に包まれ見えなくなると、風鈴は止まり、鳥居の階段は煙となって消えていく。


光も収まり、神様はスッと立ち上がった。


「もう大丈夫だ。ちゃんと帰した」


周囲の者に優しくそう伝えると、みんな安心したように会話を再開しながら散っていった。


私だけがしゃがみ込んだまま、呆然との様子を眺めている。