「帰ろ……」

 心を落ち着かせるため、わざと大きな声でつぶやいた。

 もう機能していない足を懸命に動かす。筋肉の無い棒のような私の足は、血液を心臓に戻すことができないよう。重いし痛いし、できれば近道でも通って帰りたい。


『チリン―――』


元来た道を下ろうとすると、背後から金属音のような、どこか透き通った音が風に乗って耳に入った。

 振り返ると奥にもう一つ、下に続く石段がある。

 無視するつもりだった。でも、まるでこちらが正規の下山ルートですよというように、その石段だけ、手すりが新しいプラスチック製の物だったのだ。


『チリン―――』

 また聞こえる。間違いなく、この石段の先からだった。

 正直、今まで通ってきた分かれ道を全部は覚えていない。だったら、正規ルートか近道かはわからないけれど、綺麗な道を通った方が安全なんじゃないかな。

 間違っていれば、また戻って来ればいい話。

 そう思って、ゆっくりと音のする方に足を延ばした。