「───良かったんだけど、琥牙がさぁ?……って言うんだよ。ホントやめて欲しい」


 「ん?彼氏くんが何て?」


 「彼氏じゃないけど、セフレが欲しいってさ」


 「へぇ?良かったんじゃない?セフレになってあげなよ。君の大好きな彼氏くんとセックスできるよ?」


 「あ゙?」


 「あー怖い怖い。そんなに睨まないで?でもそうでしょ?君もヤリたいんだからwin-winじゃない?」


 「ヤリたいけどそうじゃなくて、どうせ琥牙は『女』とヤリたいんだよ」


 「がんばれ」


 「ちょっと。適当なこといわないで」


 「頑張る以外に君に選択肢ある?ないよね?」


 「……」


 「不貞腐れてないでさっさと戻りな。私には惚気けも言い訳も要らないからね」


 「…せめて惚気けさせてよ。こんな事言える人みのりちゃん以外にいない」


 「そんな言い方されても嬉しくない」


 「まぁともかく。毎日朝から死にそうだよ。本当。今日もさー」


 「ちょっと!あー!今日も午前潰されるぅ〜」


 「どうせみのりちゃんやる事ないでしょ」


 「あるわよ! 「琥牙、朝から駅でさー」 って聞いてないし……」





 「はぁぁぁ〜〜〜今日も一日疲れるわ……」









  ◇ ◇ ◇ ◇



 保健室で朝から、いや毎日のように養護教諭のみのりちゃんとこんな遣り取りをしてるとは口が裂けても言えない。

 言い訳言い訳……


 「あー何してたと思う?」


 俺はバカか。
 白々し過ぎだろ。
 つか直球すぎ。
 幾ら琥牙でも怪しむって…


 「え?休んでたんじゃないのか?」


 ほらぁ。
 怪しまれるに決まってるだろ。
 みのりちゃんが朝から変な事言うから。
 うあぁぁ…


 「あ!!まさかお前…」


 あれ?なんか勘違いしてくれそう?
 よし、乗っかろう。


 「ん?なに?」



 「まさかお前、誰もいないからってここで、…してたんじゃないだろうな?」



 「え?」


 え?ええ?
 琥牙?君、俺のことなんだと思ってるんだ?
 は?ヤリチン?おいおいおいおいおいおい
 これ乗っかれないだろ。
 どーすんだよ。


 「隠すなよ。正直に言えって。別に俺を放ったらかして女とヤってたからって怒らねぇって」


 「いや。ヤってないから!!」


 琥牙イラついてる?
 なんか目が据わってるよ?


 「じゃあ何してたんだよ。密室で2人何もしてなかったなんて言うなよ?」


 「って2人?俺と誰?」


 「は?しらばっくれんな保健室の先生が居ただろ」


 「あー……」


 ごめん琥牙。
 正直君がそこまで頭回ると思ってなかったよ…
 要らないとこで頭使わなくていいから…


 「ほら、やっぱそうなんだろ?」


 もう、そういう事にしとこうかな…
 誤解解くの面倒臭そう…


 「あーはいはい。そうだよ」


 「………」



 あれ?もしかして怒った?
 幾ら自分が溜まってたからってそんな事で怒らないでよ。
 怒ってる顔も愛おしいけど。


 「ぼーっとしてるならメロンパン頂戴♪」


 「俺のだ!やらねえよ!!」


 相変わらずメロンパンにはムキになる。
 いいなメロンパン。
 俺も妬かれたい。琥牙に。
 俺のだからやらねえよ!とか言われたい。
 くそ。メロンパンずるい。
 メロンパンと代わりたい。



 「蒼月?お前もぼーっとしてんじゃねえか。もーらいっと」


 「あっ」


 琥牙が俺の手からいちごミルクを奪う。
 琥牙甘い物好きだからなぁ。
 いいよあげる。
 その代わり返してね?
 
 躊躇いなく同じストローで飲んでる琥牙に心の中で言う。

 関節キスだよ?それ。
 そんな事も気にならないんだ。
 ちょっと悲しい。



 「何だよ。張り合いがねえな。ぷぁっ、いちごミルクやっぱ美味いな!」


 「返してよ?」


 「俺を放ったらかして女とヤってた奴のなんか全部飲み干してやろっかなー」


 「…根に持ちすぎ……」


 それとヤってないんだけど。
 琥牙、絶対に気付いてないよね。
 俺が毎日いちごミルク飲んでる理由。
 確かに美味しいけど
 それだけじゃないんだよ?
 君が甘い物好きだから
 俺が毎日それを飲んでたら毎日頂戴って言うでしょ?
 そしたら毎日関節キスできるよね?
 本当のキスはできないけど関節キスでもやっぱり嬉しい


 あぁ俺ってほんと下心あり過ぎだね……