『神さまが通る橋があるからね、神さまがいつ来てもきれいな道を通ってもらえるように、いろんな木やお花を植えてあるんだ』
『ここは、神さまのためのお庭なんだよ』
普段ならば身に覚えの無いその声を不審に思っただろう。
しかしそんなことも考えられない程に僕は、それに見入っていた。
「ここは……本当に……僕は、木を、くぐった、だけ、だよね……?」
答える人はいないと分かっていても思わず漏らしてしまう。
あり得ないものを見てしまったから。
いや実際には今目にしているのでありえているのだが。
(でも、木をくぐっただけで、ここまで、ここまで
世界は変わるものなのか?……)
そう、ここは、
神のための庭
いや、
神が造った小さな世界
『神の箱庭』さながらだった。
赤く、紅く、青く、蒼く、黒く、白く、黄、緑、翠、橙、紫、桃、菖蒲、杏、鶯、楝、黄丹、韓紅、白緑、藤、瑠璃、橡、梔子、躑躅、露草、勿忘草、藍鼠、浅葱、曙、鬱金、臙脂、鉛丹、杜若、刈安、蒲、桔梗、黄赤、黄茶、生成り、黄檗、群青、柑子、琥珀、紺藍、珊瑚、蘇芳、青磁、石竹、常磐、撫子、縹、鳩羽、翡翠、白群、鶸、牡丹、弁柄、萌葱……
洗練された光と、
彩で、
満ちていた
今にも縁から溢れて互いに滲んでしまいそうな程に、
その花は、
華は、
木は、
樹々は、
その空間は、
彩づいていた
普段の世界がモノクロだったと思える程に、
鮮やかで
モノクロに慣れてしまった瞳には、
痛すぎて、
眩しくて
それでも、
目を逸らせなくて、
目を逸らしたくなくて
何もかも満たしてくれそうで、
空虚な心も、
身体も、
僕も、
世界も、
全て、その彩で
脳が焼き切れそうな量の情報が瞳から送られてくるのと同時に、
驚愕
感嘆
憐情
歓喜
感動
涙
(───────え、『涙』?)
慌てて頬に手を当てる。
(………濡れてる。な、んで、僕は、泣いてるんだ───?)
解らない。
同時に多様な感情が湧き出てきすぎて、どれが原因か判別がつかない。
感動したからか、
嬉し涙か、
哀しくてか、
ショックだったからか、
どれも正解なようで少し違う。きっとそれらも原因の一つなのだろが、核となる感情はもっと違う、全く別の感情だ。だが、それが解らない。何故、解らないのかも判らない。原因はこれらでは無い事までは分かるのに何故それが何かなのか解らないのだろう?
何故?なぜ?如何して?どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして?解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない。いったいな─────
「___── ̄ ̄──╴___──」
「っ!!!!!!!───はぁ──…………」
どこかで鳥が鳴いた。お陰で無限ループしていた思考から抜け出せた。
(………何をしていたんだろう。早く帰らないと………)