『買い物付き合って!』

2月に入って最初の日曜の朝。哲っちゃんちまで、榊を遠慮なく電話で呼びつける。

真を誘わなかったのはバレンタインの買い出しだったからで、ゆうべは帰りが遅かった本人はまだ眠そうに、ベッドの中から見送ってくれた。

「宮子ちゃん、帰りにスーパーでレンコンと油揚げ、お願い」

キッチンにいた瑤子ママからの頼まれモノを引き受け、リビングのソファで新聞を広げてたダーリンの首に後ろから腕を回して、いってきますの挨拶。

「哲っちゃんは? なんかあったら、ついでだし買ってくるよ?」

「いいから早く帰ってきなさいよ。それとも、俺を待たせる悪い女になるつもりか?」

色っぽい横目を向けて、口角を上げる着流し姿の哲っちゃん。
遊び半分で言ってるのは分かってるから、あたしもわざと思わせぶりに仕掛けてみる。

「哲っちゃんが待っててくれるなら、なっちゃおうかなぁ」

「俺に溺れると引き返せなくなるぞ・・・?」

あたしにだけ聴こえるように囁いた低く甘い声。百戦錬磨の男に瞬殺された。
今ので耳の穴から脳が熔けだして、口から魂が抜けてったよ哲っちゃん・・・・・・。





間もなく榊が玄関先まで迎えにやってきた。
フード付きのハーフコートを羽織り、晴れてても刺すような冷たい北風に首をすくめながらカーポートに向かう。と。セレナの脇に人影が見えた。

「・・・お疲れ様っス」

軽く頭を下げ、ぼそっと挨拶してくれたのは。サングラスと黒のスーツがいかにも『らしすぎる』、西沢さんだった。