そうやって笑えるまでどれだけ真が苦しい思いをしたか、きっとあたしだって半分も分かってあげられてない。

事故のあとのリハビリには絶対にあたしを付き添わせなかった。『行ってくる』って平気な顔しか見せなかった。自分で車を運転するのも、ひとりで自由に外を歩くこともできなくなっても、涼しそうに笑った。奥底でずっと自分を責め続けるあたしの前で。

見えないところで悔し涙を流して。榊やユキちゃんの前では男泣きしたと思う。それにも気付かないであたしはあたしの気持ちだけで、手一杯だった。

仁兄との結婚式で真の気持ちを何にも分かってなかった自分を知った。ふたりとも、今までの人生で二番目くらいどん底で苦しんだけど。仁兄にも辛い役目をさせちゃったけど、あの日があったからこそ、もっと深いところでもっと揺るぎなく真と結ばれたって言い切れる。

「泣いてる場合じゃないよ。締め(トリ)の挨拶は宮子だろ」

あたしの頭を撫でた大っきな掌が優しく、濡れた頬を拭う。甘い顔して甘やかしはしない同い年のダンナさま。

気を緩めると、隣りを歩いてるつもりで手を引かれてる。

ちゃんと肩を並べて歩くから。

あんたが(つまづ)きそうになる前に、しっかり踏ん張って全力で支えるから。

それでも倒れそうになったら榊と仁兄が助けてくれる。

紗江もユキちゃんも、織江さんも由里子さんもいつだってあたし達の味方で。

相澤さんに藤さん、シノブさんもあんたを見放したりしない。

どうしてもって時は、お父さんと哲っちゃんを頼ったっていいの。

おじいちゃんおばあちゃん、瑤子ママに甘えたっていい、家族なんだもん。

あたし達は二人きりじゃないってこんなにも。


真っ直ぐ顔を上げてひとりひとり目を合わせてく。
暖かい眼差しと笑顔が返る。

みんなの手から渡されてきた色んな愛情の聖火が、ポッと胸の奥の聖火台に灯されたみたいな。もう一度隣りを見上げたら、今度はちょっと不敵そうな笑い顔。炎がハチミツ色にはためいた。

「なんだか言いたいことはいっぱいあったのに、真の笑ってる顔みたら全部どっかに飛んでっちゃいました!」

晴れやかにあたしも笑う。

この胸の()を絶やないように。
嵐になっても吹雪に晒されても。

守るね。

あんたが嘘じゃなく笑ってられるように。
どんな闇の中でもあたしが照らしてあげられるように。

真がこの極道(みち)を。どこまでも貫き通せるように。



女は愛をつらぬくね。