国産高級セダンの後部シートに哲っちゃんと横並び。肩を抱かれた格好で無言の圧がかかってる気もする。

きっと経緯(いきさつ)はユキちゃんから筒抜けなんだろうけど、それなら尚さら自分で言わないと。思い切って口を開いた。

「哲っちゃん」

「なんです?」

「高津さんが、日本を出る挨拶したいからって千也さんを寄越しただけの話なの。だからシノブさんにも関係ないし角が立つことでもないから」

平静を装ってさらりと言い流す。

当事者のあたしが『なんでもない』なら追及もされない。相澤さんにまで累が及ぶなんてことにはならないハズ・・・!

「・・・真が尻を拭くと言ってますんでね、出しゃばるつもりはありませんよ」

おもむろな響きに深く安堵の息が漏れた。
もし本家の若頭が動くなんてことになったら、織江さんや由里子さんに死んでも顔向けできなくなる。

「それより誓って俺に嘘はないかい」

急に切り替わった口調に戸惑う間もなく顎の下を捕まえられ、哲っちゃんの麗しい顔が迫ってた。じっとあたしを見据える切れ長の眼差しは、抜き身にも似た冷ややかな気配を放つ。

「俺のお嬢が他の男に(うつつ)を抜かす恥知らずとは、思ってもねぇが」