人妻になったからっていきなり生活が180度変わったりしないし、榊もフツウにいつもどおりだし、哲っちゃんと瑤子ママを『お義父さん、お義母さん』なんて呼んだりもしない。

まあ・・・おじいちゃんとおばあちゃんが『早く孫の顔が見たい』って言い出したりとか、真の甘い顔付きがなんだか仁兄ぽくクールに見えてきたりとか。他人から『奥さま』呼びされると思わずにやけそうになったりとか、些細な変化を楽しんでたりはする。

真の隣りでウェディングドレスを着る、とっておきのお楽しみをまだ残してて。春の陽気も手伝ってか、ちょっとだけ足許が地面から浮いちゃってる。・・・かもしれない。



仕事はとりあえず続ける予定で、仁兄の会社だから大目に見てもらえてるのはちゃんと自覚してる。普段はあんまり言わない哲っちゃんからも珍しく諭された。

『・・・宮子お嬢が思っているよりずっと、お嬢の命には値打ちがあって代え難いものなんですよ』

あたしの人生はあたしだけのものじゃない。分かってたことだけど誰に言われたより一番深く染みた。臼井の家を絶やさないこと。一ツ橋組を存続させること。自分にしかできないこと、守られる意味。・・・結婚してあらためて向き合ってる気がする。

あと少しだけワガママを聞いてもらったら。堅気の世界からはきっぱり身を引く。そう決めたらかえって肩から力が抜けた。