たとえ君が・・・

口をもごもごとさせながら多香子は「うれしくない・・・」と膨らんだ頬のまま言った。
「そうもなるよな。俺たち、ゆっくり食事できなかったり、途中で箸を置いたり、勤務中飲み食いできないことも多いからな。こういうラーメンとかは特に職業病だな。」
渉の言葉に多香子はまだたくさん食べ物の入った頬をもごもごさせながら頷いた。
医師の渉も、助産師も看護師も両方で勤務することのできる多香子も、いつ何があるかわからず緊急の呼び出しや、休憩時間に関わらず緊急の対応に追われることが日常茶飯事で、いつの間にか食べられるときにすぐ食べる。眠れるときにすぐ眠る。が癖になりつつある。
多香子も食事をするときは、口に食べ物を頬張り、呼び出しに備えることが癖になっていた。

「バニラアイスです。」
店員の運んできたバニラアイスに多香子の口の端が少し上がる。
嬉しい時の多香子の最近の表情だ。
「なぁ、多香子。」
「ん?」
バニラアイスは大切に少しずつ口に運んでいる多香子を見ながらふと渉は想いを口にしていた。
「もう一回見たいな・・・多香子の笑った顔。」
「・・・」
多香子の表情が一瞬でくもる。