たとえ君が・・・

渉はじっと多香子の後ろ姿を見る。

ほかの誰かにはわからなくても、渉には多香子の表情が見れる。
嬉しい時は少し口の端が上がる。悲しい時は肩を落とす。特に誰もいない屋上では多香子は仮面を脱ぐかのようにかすかにだが感情を表に出す。

付き合いが長いから多香子の表情をよめるのではない。

ずっと多香子だけを見て来た。

多香子がほかの誰かと一緒にいるときも。

大きな悲しみに打ちひしがれるときも。

だから、渉には多香子の気持ちが分かる・・・。


多香子が感情を表に出さなくなった原因は自分にもある・・・

渉は白衣のポケットに手を入れながら再び廊下を歩き出した。