たとえ君が・・・

「営業じゃないんだから。」
玄関の前でコートを脱ぎ、スーツ姿になる渉に多香子は思わず言った。
「はじめが肝心だからな。」
渉はそう言って背筋を正す。

微笑みながら多香子が自分の家のチャイムを鳴らすと玄関の扉が開いて中から多香子の両親が顔を出した。
「いらっしゃい。」
「おかえり」
「ただいま。」
「突然お邪魔してすみません。橘渉と申します。」
多香子の両親に頭を下げる渉に、多香子の両親は声を出して笑った。
「そんな気を使わないで。」
「堅苦しいあいさつはいいから、中に入りなさい。」
そう言って多香子の両親は家の中に二人を招いた。
「お邪魔します。」
渉は自分の脱いだ靴までそろえようとする。
多香子がすっと渉の靴をそろえると、二人の頭がぶつかった。
「いてっ」「いたっ」
『ゴンッ』という鈍い音とともに渉と多香子が自分の頭に手をやった。